新型コロナウイルス感染症の影響で普段の学生生活もままならない毎日が続いている中、昨年度を上回る25作品もの応募が寄せられたことにまずは感謝申し上げたい。選考委員の間で一次評価を行って10作品に絞った後、合議によって1作品に最優秀賞を、5作品に優秀賞を授与することとなった。

 今年の特色としては、環境シミュレーションの対象が非常に多角的になってきたことが挙げられる。気流環境のほか光環境、温熱環境、音環境などのシミュレーションを通して建築環境を多面的にとらえ、そうした中で最適な設計を詰めていくことが優秀な学生の間では当たり前になりつつあることは大変喜ばしい。また、多角的な検討を実施しやすいという点でグループ提案による受賞者が増えているが、個人のアイデアですべてを実施することの意義も考慮し、次回から個人枠とグループ枠を分けることも検討したいと考えられている。

 二次選考からは映像データの提出をお願いしたが、図面とはまた違った印象で順位点が逆転する場合もあり、プレゼンにも是非注力して、魅力的な建築作品を効果的表現する技術についても磨き上げていって欲しい。

SABED代表理事 倉渕 隆

※総得点順、総評は上位3組のみ掲載

最優秀賞

HOMEOSTASIS in Architecture 建築における快適性の恒常化のための試行

中澁 大喜(九州大学大学院 修士1年、担当:風環境解析)
守田 侑太郎(九州大学 学部3年、担当:光環境解析)
山岸 将大(九州大学大学院 修士1年、担当:設計統括)
石本 大歩(九州大学大学院 修士1年、担当:基本設計)

<作品評>
・意匠
不特定多数の人々にとっての快適性の追求という大きな課題に正面から取り組んだ、射程の長い作品である。全てのファサードを可動させるのは現実的にはオーバースペックになりそうであるが、案の方向性としては、ボリューム操作や細かなプランニングとの組み合わせで、ユニバーサルスペースではなく個別解としての建築を指向しており、この先の可能性を感じる。季節や時間帯だけでなく、用途変更などの長期的な変化に対しても、その都度適応して使い続けることができる、新たなサステナビリティにつながる可能性を持つ提案である。(安原)

・光
グレアの年間評価に着目したファサード制御の提案は非常に意欲的である。一方で、提案者達も指摘しているようにグレアは建物利用者の体の向き、すなわち人のアクティビティと密接な関係を持っており、オフィスのように長時間にわたり同姿勢を強いられる建築用途では重要な光環境の指標であるが、店舗のように基本的に人が流動する建築用途においてファサード制御の評価指標としてグレアを選択することの合理性にはやや疑問を感じた。建物内部のプランニングを検討し、各用途に応じてグレア評価の重要度を変化させるなど、アクティビティと求められる光環境との関係により言及できると、さらに魅力的な提案につながるだろう。(谷口)

・通風
環境シミュレーションに対する問題提起を起点とし、ホメオスタシスの概念に基づき、部分的な形として落とし込めており、大変意欲的な提案である。風に関しては、単なる通風解析ではなく、逆解析に基づき、開口位置の検討を行っている点も面白い。周辺環境の変化だけでなく、商業施設としての内部空間の使われ方や人のアクティビティに呼応して、ファサードを変化させるようなアルゴリズムの展開など、今後のさらなる発展に期待したい。(大風)

・熱
ホメオスタシス(生体恒常性)をヒントに、ファサード一面に設置された小開口操作によるダイナミックな採光・通風の制御について、明確なコンセプトにより魅力的に整理されている。本作では開口の操作の影響は、光や通風への影響に特化して検討されているが、実際には外気導入や空気循環による伴う温度・湿気、さらにオフィスにおける内部発熱の影響も大きい。人体においても表皮だけが重要なのではなく、血流による熱移動や身体コアでの熱生成の影響が大きいことを考えるまでもなく、さらなる発展を期待したい。(前)

・総評
福岡天神に位置する商業施設に対し、日射調整用いられる可動ルーバのような外装材によってファサードを形成し、日射調整のみならずグレア評価に基づく室内光環境やCFDに基づく気流環境予測によって調整し、外界条件の変化に対し室内の恒常的快適性を実現するとともに、魅力的な外観を構成している点は高く評価できる。シミュレーションについても逆解析を活用するなど高度な手法を用いている点が評価された。(倉渕)

 

優秀賞

WINE SCAPE IN JAPAN 環境シミュレーションによるブドウ畑と建築の横断的設計

小川 裕太郎(早稲田大学大学院 修士1年、担当:環境シミュレーション)
豊住 亮太(早稲田大学大学院 修士1年、担当:環境シミュレーション)
二上 匠太郎(早稲田大学 学部4年、担当:環境デザイン)
銅木 彩人(早稲田大学 学部3年、担当:環境デザイン・模型)

<作品評>
・意匠
ブドウの生育環境などの丁寧なリサーチと環境シミュレーションによる定量的な分析を掛け合わせることでワイナリー全体の計画が行われており、大変な力作である。提案されている建築についても、環境シミュレーションを活用した建築形態の生成を行いながら、あくまで主役はブドウ畑であると言わんばかりにひっそりと建つ佇まいも大変好感を持った。ワイン醸造の過程を追体験できるシークエンスを持った内部空間の提案も魅力的である。(谷口)

・光
水盤を通した光による木漏れ日効果を遺伝的アルゴリズムと模型による確認を通して実現しようとする取り組み自体が非常に意欲的で高く評価されよう。シミュレーションの限界を模型で補いながら検討を進める設計手法は、今後も様々な場面でヒントをもたらしてくれるだろう。(吉澤)

・通風
ブドウを主体に置いた、ブドウのための建築として、ワイナリーの配置や形態が探られており、風環境設計に関しても大変興味深いスタディが丁寧に実施されていた。コンセプトの通り、最終的には、建築があることによってブドウに取ってより良い通風環境形成を達成したことは評価できる。(石田)

・熱
体温調節モデルJOS-3を用いて、ワイナリー内の空間体験のシークエンスの中での体表面温度の経時変化を検討している点が興味深い。また、レストランでは木漏れ日を再現するための天井の遮蔽物について、光と日射熱を効果的に制御するための形状を検討するなど、全体に渡って高度かつ丁寧な検討がなされていた。(高瀬)

・総評
ブドウ畑、ワイナリー、レストランなどワインの製造と消費を行う施設として,CFDや光,温熱シミュレーションの技術を利用した総合的な検討に基づく魅力的な提案が行われている。特にブドウ畑の中に建つワイナリーがいかにブドウの生育上最適な形状とするかの検討には説得力が感じられた。シミュレーションによる高度な検討は高く評価されたが,提案されている建築形態がややオーソドックスな点を残念に感じる向きもあった。(倉渕)

 

Parametric House〜指向をデザインする〜

高野 建(明治大学 学部4年、担当:個室光解析)
徳脇 悠真(明治大学 学部4年、担当:風・温熱解析)
浜田 雅也(明治大学 学部4年、担当:共用部光解析)
細谷 太勇(明治大学 学部4年、担当:風・温熱解析)
水越 永貴(明治大学 学部4年、担当:意匠設計)

<作品評>
・意匠
環境調整装置としての「コンバーチブルボックス」を駆使し、多角的かつ丁寧なシミュレーションで形態が根拠づけられた力作である。内部の吹き抜け空間と階段状の屋外空間とがより積極的な関係を持てば、多彩な属性を持つ居住者に対して、より選択制の高い居場所を提供できるのではないか。(安原)

・光
太陽高度・方位角を細かく分析した光ダクトが「コンバーチクルボックス」として建築の特徴的な外観をかたちづくっており、シミュレーションによる分析と建築の携帯操作が合致した力作である。個室空間については、周辺建物からの視線制御と昼光利用というトレードオフの関係になる指標を用いたパラメトリックスタディによってダブルスキンファサードを提案するなど、リアリティを持った提案として高く評価した。(谷口)

・通風
光環境、風環境に対して、明確な目標を設定し、コンバーチブルボックスの形状の最適化を軸に、設計提案を行っている。シミュレーション結果を定量的に評価し、効果的に利用している点は、極めて高く評価できる。ボックスの形状をStep by Stepで検討を行っている点も、思考が明快でわかりやすい。(大風)

・熱
学生寮について、外交的・内向的学生それぞれの性格に配慮しながら、光・風・温熱の採り入れ機構をボックス(ダクト?)として、明確に課題設定を行い、丁寧にシミュレーションを行っていることが評価される。
ダクト形状の工夫による自然光利用は興味深いが、膜を通過させているとはいえ、グレア感の検討は必要であろうし、日射取得による夏・冬の温熱環境への影響も検討するべき。空調計画は共用部を床吹出としていているが、想定した学生の生活と目指した空間にマッチしたものであるのか、より明確に説明できるとと、更に内容が充実する。(前)

・総評
留学生が生活する国際学生寮を交流の場としての階段とボックスを融合させた建物として設計し,主に光環境、視線環境、気流環境についてのシミュレーション結果から形状のディテールや庇の最適位置を決定するプログラムとなっている。採光特性、視線遮蔽、気流環境などがトレードオフの関係となる場合おいて、バランスを考慮した選択を実施していることが表現されており、総合的な環境に力点を置いている考え方には好感が持てる。最終的な建築形態にも魅力が感じられる。(倉渕)

 

Meditative Basket -環境と想いを包み込む瞑想空間の提案-

小松崎 楓(芝浦工業大学大学院 修士1年、担当:設計・環境解析統括)
強瀬 智子(芝浦工業大学大学院 修士1年、担当:設計・環境解析統括)
廣木 千咲子(芝浦工業大学大学院 修士1年、担当:設計・環境解析統括)
井出 岳(芝浦工業大学大学院 修士2年、担当:Rhino + Grasshoperサポート)
糸井 星貴(芝浦工業大学大学院 修士2年、担当:環境解析サポート)
藤井 茉優(芝浦工業大学 学部4年、担当:パース・設計サポート)
船田 林ノ佑(芝浦工業大学 学部4年、担当:図面・設計サポート)

<作品評>
・意匠
特徴的な10個の瞑想ルームについては、それぞれのキャラクターに応じて適切なシミュレーションツールを用いた検討が行われており、バイオフィリック・デザインの概念にもつながる魅力的で説得力のある空間が提案されている。一方で、Phase 4で説明されていた「環境要素の重ね合わせ」というコンセプトはやや説得力を欠き、提案されている空間も瞑想ルームと比べるとやや魅力に欠ける点が残念である。人の溜まり場となるより多くの空間を、有機的なファサードに呼応するように配置できれば、さらに魅力的な提案となったのではないだろうか。(谷口)

・光
木漏れ日の検討・視線誘導の検討など様々な点からの評価がなされており力作であると評価できよう。ただし光を導入する一方で日射熱取得に対する配慮が欠けているように見受けられた点が残念であった。(吉澤)

・通風
Phase1における瞑想ルームの配置検討では、適切な風環境を得るために系統的なスタディが行われている。また、敷地南側に配置した植栽は、南道路から吹き込む排気ガスを抑え、新宿御苑方向から吹き込む空気の空間割合を増やすことに寄与すると考えられる。一方で、外皮の設置により、当初想定した通風環境が得られないことに関するフォローアップが確認できなかったこと、また、温熱環境解析が実施されておらず、透明外皮建築が解くべき課題の一つである、空間内部に籠もる熱の排出・換気検討が十分ではなかったように感じる。(石田)

・熱
巣の網目から着想したダイナミックな形態を採用し、日射遮蔽効果を検討するほか、水盤が温熱環境に与える影響などを解析している。粗密によって日射が入りやすいところと防ぎたいところを意図的に計画されているものの、大空間のなかでの日射熱の総取得量は相当のものになると考えられ、実際には暑いのではないかといった意見が複数の審査員から挙がった。日射量だけでなく、温度やPMV、SET*などによる検討で、熱環境評価もなされることが望ましい。(高瀬)

 

橋が織りなす出会いと居場所

高木 麟太朗(東京大学大学院 修士2年)

<作品評>
・意匠
土木的なスケールの全体造形が大きな環境をつくり、その中にヒューマンスケールの居場所を作り込んでいくという二段構えのアプローチが独創的である。後者のデザインがより具体的かつ緻密に描かれていれば、もう一段高いレベルの建築になるだろう。(安原)

・光
風解析によって決定された建築形態をベースに、光環境シミュレーションを繰り返しながら各空間でのグレア軽減の対策を講じる検討の進め方は合理的であり、高く評価する。一方で、提出されたシミュレーション画像からは直達光の遮蔽によっていずれの空間も似たような光環境の場となってしまっているように見え、提案している用途ごとの多様な光環境が実現できているのかについては疑問が残った。(谷口)

・通風
大規模な構造物によって形成される風環境、光環境をシミュレーションにより紐解き、丁寧に練り上げられた作品である。橋によって形成される3次元的な大きな風の流れと、それによって形成される環境や人の活動などが、人の視野より広い視点で示されると、橋の持つダイナミックさがより際立つように感じた。今後の展開に期待したい。(大風)

・熱
橋を形態コンセプトとして、魅力的な交流スペースを提案している。主な検討項目が光と風となっているが、実際には大きな開口部からの日射の影響も大きいはずで、その影響を検討し、開口部ごとに望ましい特性の提案ができているとさらに内容が充実したであろう。(前)

 

光彩の学舎〜環境シミュレーションが生み出す多様な空間〜

樺木隆則(東京理科大学 学部4年、担当:風解析)
西原尚輝(東京理科大学 学部4年、担当:光解析)
松田啓汰(東京理科大学 学部4年、担当:建築計画)
柳川和慶(東京理科大学 学部4年、担当:建築計画)

<作品評>
・意匠
現状についての丁寧なリサーチのもと、大学の講義棟の建て替え計画が提案されており、好感の持てる提案である。ただし、オープンスペースや建築製図スペースといった空間がひとつながりになった廊下空間に漫然と配置され、メリハリのない空間となってしまっている点が残念である。光庭や廊下などの移動空間とオープンスペース等との関係をより緻密に計画し、例えば床レベルや天井レベルの変化、あるいは什器のデザインによって空間を緩やかに性格付けできれば、より魅力的な建築となっただろう。(谷口)

・光
光環境の解析は丁寧に行われており、用途に応じて適切な照度範囲を決め空間配置を行なっていく手法は環境設計として妥当であると評価できよう。将来的には年間計算に基づく検討などより様々な条件下における環境評価を行なっていくと良いだろう。(吉澤)

・通風
屋外の風環境解析から敷地の通風ポテンシャルを読み解き、これを踏まえて、さらに光解析を併用することでボリューム検討が行われており、形成したい空間を再現するために必要な解析が正しく行われている印象を受ける。一方で、屋内の風環境検討に関しては、風環境に応じた空間アクティビティ検討が行われているが、空間が連続していることが前提となっており、実際に建築を利用する際に提示されている風環境が再現されるかは疑問である。(石田)

・熱
光環境に関する検討は丁寧に行われていた半面、熱環境に関する検討がなされていなかったため、日射解析や温熱環境解析などによって設計を詰めていく余地があり、今後に期待したい。(高瀬)

 

奨励賞

松原児童センター「僕らのスミカ」〜巣の形態を模倣した原初的な児童施設の提案〜

安達 鉄也(千葉工業大学 学部4年)

女川とikou  この町、この海と生きていく

伊藤 健允(東北大学大学院 修士1年、担当:光解析)
小林 春斗(東北大学大学院 修士1年、担当:温熱解析)
小森ゆりこ(東北大学 学部4年、担当:意匠)
髙橋旺大(東北大学 学部4年、担当:音響解析)
古澤志帆(東北大学 学部4年、担当:風解析)

屋根の連なりのもとに  再開発が進む埼玉県草加市松原に新たに建てかえる児童センターを提案する

髙橋 勇斗(東京大学大学院 修士1年)

軒下の居場所 屋根形状の最適化による軒下空間

金谷 麟(大阪工業大学大学院 修士1年)
松島 佳司(大阪工業大学大学院 修士1年)
石井 航平(大阪工業大学大学院 修士1年)
石田 修平(大阪工業大学大学院 修士1年)