SABED環境設計シミュレーション賞の社会人部門が設けられ、3回目の開催となる今回、やはり新型コロナウイルス感染症を意識した提案が寄せられた。
それぞれの提案は非常に個性的であり、同じ尺度で評価することは難しかったが、合議の末に1作品に最優秀賞を、1作品に優秀賞を、1作品に奨励賞を授与することとなった。テーマは高層ZEH-Mと建物内外を連続的につなぐグラデーション環境という個性的なもので、建築設計・環境設計のプロとして、社会に発信すべきアイデアがまとめられており、社会人部門としてふさわしいレベルと評価できる。
 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、昨年に続き公開審査の開催は見送らざるを得なかったが、来年度はさらに多くの作品が応募され、公開審査で意見交換の場を設けられるようになっていることを期待したい。

チャレンジ部門への提案は、この賞の位置づけがはっきりしないこともあって少なかったが、提案作品を通して賞の特色も定まっていくことを期待し、今後の多数の応募に期待したい。  ※チャレンジ部門 優秀賞該当なし

SABED代表理事 倉渕 隆

社会人部門 最優秀賞

ZEH-M+m
江部 杏奈(株式会社日建ハウジング、担当:建築計画)
金子 知弘(株式会社日建設計、担当:エネルギー解析 )
佐藤 悠(株式会社日建ハウジング、担当:建築計画)
塚田 眞基(株式会社日建設計、担当:風環境解析 )
中曽 万里恵(株式会社日建設計、担当:光環境設計)
永瀬 修(株式会社日建設計、担当:バルコニー環境実測)

<作品評>
・意匠
目標設定が極めて今日的かつ明快で、派手ではないものの実現性の高い空間の可能性が示されていることが高く評価された。共同住宅の各住戸に、モードチェンジ可能な「庭」のような空間を加えるというシンプルなアイデアであるが、四季や時間帯ごとに描かれたドローイングが、これまでにありそうでなかった生活の拡張性と多様性を示しており、確かな住空間の未来を感じさる提案である。(安原)

・光
mルームを介した日射のコントロールにより昼光利用を適切にコントロールされており、その効果が「照明点灯時間」という指標で評価されている点はクライアントや住まい手に対してもわかりやすく説得力のある説明となるだろうと予想され、大変高く評価した。特に住宅においては建物側での工夫はもちろんのこと、住まい手によるブラインドの開閉などの環境調整行動が大きな役割を担っており、住まい手が能動的に住環境を適切にコントロールしようという動機付けになるようなシミュレーションの活用方法が提案されている。(谷口)

・通風
追加されたmルームに環境調整機能をもたせ、集合住宅でZEHを目指す課題設定がタイムリーであり、大変面白い。いくつかのプランバリエーションに対応したシミュレーションによる検討、季節毎・時間毎の検討などが丁寧に示され、集合住宅の多様性の拡張を感じさせる優れた提案と評価できる。(大風)

・熱
集合住宅の省エネ・再エネは、特に都市部において重要であり、ZEH-Mを扱う本作の検討は貴重である。本研究でも、CFDや熱回路網計算により、プランニングの工夫による集合住宅の省エネ化を様々に提案している。シミュレーションと併せて実物件での事象分析を示すことで、理解や共感につなげている点も評価できる。一方で、集合住宅の熱負荷計算には線熱橋係数や熱容量など固有の課題が色々あり、そうした事項がどの程度検討に反映されているのかが若干不明確に感じられる。空調計画含め、今後の更なる発展を期待する。(前)

・総評
カーボンニュートラルの達成に向けて住宅におけるエネルギーの大幅削減が課題となっている現在,住宅数あたりの再エネ量に制約のある高層集合住宅においてZEH-Mを達成させるために、mルームを増やすことによる再エネ増と省エネ推進を図る提案である。断熱性能の向上のほか、日射熱のコントロール、打ち水による空調負荷削減、採光の活用による照明エネルギー削減のほか、省エネ効果の量的な評価につながらないものの通風の利用可能性がシミュレーションを用いて追求されており、提案にある程度の説得力を与えていることが評価できる。また,コロナ禍においてプライベートな外部空間対する要求に対尾する提案となっている点も評価でき高い評価を受けた。(倉渕)

社会人部門 優秀賞

Environmental Gradational Office
屋外感の提案と環境グラデーショナルなワークプレイス
井上 瑞紀(株式会社日建設計、担当:音環境解析)
内田 橘花(株式会社日建設計、担当:風・温熱環境解析 )
大平 豪士(株式会社日建設計、担当:環境解析全般)
關 信怡(株式会社日建設計、担当:コンピュテーショナルデザイン・環境解析全般 )
原田 尚侑(株式会社日建設計、担当:コンピュテーショナルデザイン・環境解析全般)
本田 佳奈子(株式会社日建設計、担当:意匠設計)

<作品評>
・意匠
様々な評価指標を重ね合わせることで、屋外空間から室内へとグラデーショナルにつながる空間の魅力を定量的に示そうと試みた意欲作である。様々なシミュレーションを用いたプレゼンテーションも非常に説得力があるが、最終的に出来上がった「Park」「Street」「Cave」「Pod」と名付けられた空間がいずれも一般的なオープンなミーティングスペースのように見え、環境的なグラデーショナルが建築意匠あるいはその場のアクティビティにどのように影響を及ぼしているかがプレゼンテーションからは読み取れきれなかった点は残念である。(谷口)

・光
屋外感という新しい指標を設定し検討を進めていく点は意欲的な課題設定として評価されよう。屋外感の評価方法についてはまだ曖昧な点も残り評価が分かれるところもあるだろうが、昼光については概ね妥当な評価軸の設定であると言えよう。(吉澤)

・通風
渦巻状空間により物理環境にグラデーションを与えた空間を形成する、という設計意図がしっかりと空間化されていることが種々の解析により確認されており、ユニークな空間体験がイメージされる。
一方、外部環境の変化に応じて「グラデーション空間」の環境も時々刻々と変化するため、一定時間以上留まることが想像しにくい。特に夏季や冬季は、温熱面で快適なエリアは限定的で、先に述べた通り、時間的にも変化することが想定される。(石田)

・熱
Open-airからindoorに進むにつれて段階的に温熱環境も変化し、屋外に近い場所から最終的には安定した室内環境まで作り出すことを実現している。説明資料ではSET*による評価も行っているとのことなので、こうした物理指標で屋外感の評価がどのように変わるかといった点も興味がある。なお、暖冷房時にも自然換気を行うことを想定しているが、湿度調節をどのように行っているのかといった点は気になった。(高瀬)

・総評
自然を感じる屋外と空調室内を渦巻き状に連結した空間において、クグラデーショナルな環境評価を気流、温度、照明、音響環境に関するシミュレーションを実施することによって定量的に表現し,自然環境を室内環境調整に利用する従来の環境建築からさらに一歩踏み出した実験的な建築の提案がなされていることは評価できる。ワークプレイスに屋外環境を取り込んでいく手法として可能性が感じられるものの、盛夏や厳冬期での使われ方にリアリティのある積極的な提案があれば、より魅力を増したと思われる。(倉渕)

社会人部門 奨励賞

Building Environment Simulation × AI

飯田 玲香(株式会社日建設計)
八登 千佳(株式会社日建設計)

 

チャレンジ部門 奨励賞

PRE-SIMULATE-設計スタディのための眺望評価プログラム-
渡邉 陽介(株式会社日建ハウジングシステム)
關 信怡(株式会社日建設計)