学生部門はコロナ開けであることも影響してか,29作品の応募を頂いたことには感謝したい。SABED賞がきっかけとなって,学生のみなさんが環境志向の建築設計に興味を持っていただくことがこの賞を設けた目的であるからである。

 応募数の内訳は個人(学部):5作品,個人(大学院):4作品,グループ:20作品となった。選考委員の間で一次評価を行って,10作品に絞った後,合議によって2作品に最優秀賞を,5作品に優秀賞を授与することとなった。

 最優秀賞を獲得した二作品はいずれも光の分析に力点を置くものであった。

 「光をまぜる」では室各部に設定した採光による目標照度を実現するための外壁の部位別透過率の最適化を行うことで特徴的なファサードを実現している。

 また,「わさびや」においては川の流れるワサビの生産拠点を立地とするホテル,レストランの詳細な環境シミュレーションを実施しており,魅力的なプログラムを展開している。

 今回,全般的に学部生の応募作品の評価が高く,建築を学ぶ初期段階から環境シミュレーションに慣れ親しんでいることが伺えて大変喜ばしい。学生課題の前提としてSABEDへの応募を検討頂き,この賞のさらなる盛り上がりに期待したい。

SABED代表理事 倉渕 隆

最優秀賞

光をまぜる

石川 敬一(東京大学 工学部建築学科 学部4年)

<作品評>
・意匠
現在はただ人々が通過するだけの場所を、極めて高いレベルのシミュレーションを通じて居場所化した力作である。流れの中に存在する滞在空間をうまく表現し、高い評価を得た。一方で場所の多様性を、照度とそれをコントロールする外壁パネルの配置に還元していることは物足りなさを感じた。風や音、空間の形や大きさ、囲われ具合などの要素を操り、より豊かな多様性を内包した環境をデザインするべく、次のステップへと進んでもらいたい。(安原)

・気流
最適化のアルゴリズムを適切に活用し形態を決定するプロセスが組み込まれた設計作品として高く評価できる。
目的関数の検討や計算コスト低減に向けた操作など、手法に対する理解も十分である。
「多様な環境を内包する空間」を目標に掲げているが、定量的に扱われた物理的要素が、光環境に関するものに限られている点が惜しいが、学部学生の個人の作品としては十分に深い検討が行われたといえる。(石田)

・光
遺伝的アルゴリズムを用いてファサードパネルの透過率を決定するアイデアそのものは昔から繰り返されてきたものであるが、駅ファサードに適用することで魅力的な空間を作り出すことに成功していると言えよう。最適化の目的関数を検討する際に照度差の対数を取った点は、人間の知覚量には物理量の対数が比例するという原理をもとに議論しても良かったろう。いずれにせよ最適化の検討過程にも工夫の跡が見られ、提案として高いレベルに達していると評価できる。(吉澤)

 

わさびや

岩田 明紘(芝浦工業大学大学院 建築学専攻 修士2年、担当:全体設計統括・意匠・光環境解析)
小森 佳佑(芝浦工業大学大学院 建築学専攻 修士2年、担当:意匠・音解析)
濱田 啓吾(東京工業大学大学院 建築学専攻 修士2年、担当:温熱環境解析・風解析)
阿部 匡平(東北大学大学院 都市・建築学専攻 修士2年、担当:水解析)
浜崎 美晴(東北大学大学院 都市・建築学専攻 修士2年、担当:敷地解析・風解析)

<作品評>
・意匠
農作物生産の場は自然と人工物がせめぎ合う美しさがある。わさび田を取り上げ建築的環境へと発展させたこの案は、設計内容、プレゼンテーション共にその完成度と美しさで高い評価を得た。シミュレーションも多彩である。外皮における環境制御だけでなく、例えば光であれば水面や天井の反射などの微細な要素も環境デザインに採り入れられれば、より高い次元で自然と建築が一体化した設計となるだろう。(安原)

・気流
まず、わさびの生育において特に重要な要素の一つである日射の遮蔽に関する最適化検討が行われ、
この光環境を担保するための建築形態・計画検討が展開されてゆく作品。
わさびを主体に捉えた環境シミュレーションを併用した設計作業が1段階目に実施されたことにより、
「人間のためにわさびが在る」のではなく、設計者の考える「人間とわさびの共存」が見事に再現されている。
なお、検討の大部分が光環境に関するものに集中していることから、例えば、夏涼しく、冬暖かい環境が再現されているのか、
といった温熱・風環境に関する検討が組み込まれることにより、より精度の高い設計作品となるだろう。(石田)

・光
日射解析・照度分析に基づく魅力的な空間提案になっていると評価できよう。グレア指標は何を用いたのか、またその本来の意味を理解した上で使用されているのかという点に疑問は残る。現在用いられている一般的なグレア指標はいずれも作業空間用であり、レストランのグレアの良し悪しを評価可能な指標は存在しない。もし既存の指標を使い廻すのであればその意味を再検討する必要がある。(吉澤)

 

優秀賞

Biophilia Office

柳川 和慶(東京理科大学大学院 創域理工学系研究科・建築学専攻 修士2年)

<作品評>
・意匠
光・視環境、風環境、音環境と複数のパラメータ間を横断しながら、個人が感じる心地よさの違いに着目してオフィスの多様な空間を提案しており、その検討の力量を高く評価する。
さらには個人の好みや植物の生育環境について、事前に実測・実験調査を行いその結果をエビデンスとして検討の閾値としているため、提案の説得力を強く得ることができている。
ここまで詳細な調査・解析を実施しているのであれば、必ずしも矩形な平面に縛られた提案をする必要もなかったのではないか。
むしろ従来の計画学では思いつかない柔軟で新しいオフィスが提案される可能性があっただけに、意匠の観点からはやや不満が残った。(谷口)

・気流
十分な事前実測調査に基づく設計者なりの目標値を定めている点が評価できる。
一方、検討外の季節においても同様の環境が成り立つのか。眺望性確保を目的とする際、見る対象についての検討が十分であったのか。室外機からの音の発生の影響を分析しているが、検討対象の発生源は室外機のみで十分であったのか。といったように、個別の検討項目において、さらにもう一歩ずつ踏み込めると、さらに良い設計が可能であったと感じられた。
しかしながら、個人でここまでの多様な物理環境要素の調査・分析・評価を行った点は素晴らしい。(石田)

 

ECOING NATURE

小原 可南子(九州大学大学院 人間環境学府 空間システム専攻 修士1年)

<作品評>
・意匠
珊瑚礁をヒントに集住環境を様々なスケールでデザインし尽くそうという意欲的なプロジェクトである。林立するタワーをネットワーク状に繋ぐチューブは通風だけでなく構造にも活用できそうで建築的可能性を感じさせる。個々の住居が、さらに小さな単位でニッチを持ち、魚が珊瑚に身を隠す時のような快適さを獲得できると、提案はさらに迫力を増すだろう。(安原)

・気流
デザイン手法としてバイオミミクリーを用いて、珊瑚の生態を模倣しながら都市を構築している試行的な設計案といえる。
冬と夏の日射量での建物群のボリュームの最適化や、大阪という海の近くの大都市ならではの風環境を考慮した計画とされている。
その結果として、環境解析を活用して立体的かつ複雑な都市空間が形成されているだけでなく、
例えば住宅の内部空間については、その中で生活する人々の公私分離を両立させるようなドーナツ状の平面形状となっている点も魅力的である。
一方、設計者の問題意識としてヒートアイランドや地球温暖化に重点が置かれているためか、日射と通風によるボリューム検討が大半であった。
省エネ対策にとって重要である建物内部の熱環境や熱負荷削減などの定量的な検討までは至っておらず、環境設計としては更なる検討の余地がある。(高瀬)

 

たとえば、子どもがいたら

入澤 菜々葉(東北大学 工学部 建築・社会環境工学科 学部4年、担当:意匠設計)
鈴木 光(東北大学 工学部 建築・社会環境工学科 学部4年、担当:意匠設計)
出牛 すずか(東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻 修士1年、担当:環境解析)
土居 建貴(東北大学 工学部 建築・社会環境工学科 学部4年、担当:環境解析)

<作品評>
・意匠
様々な省エネ実現・快適性向上のための要素技術を設計の中に組み込み、それらの効果を定量的に評価した総合力の高い提案である。
特に保育園の提案で検討されていたキンモクセイの香りの拡がりに関する解析は、独自性があり興味深く拝見した。
一方で、環境要素を組み込むことで建築そのものの提案がどのように変化・改善されたのかがプレゼンテーションの中でわかりにくかったことが残念である。
教育複合施設のスロープと内部空間との関係性など、もう一歩踏み込めばさらに魅力的な建築空間になったであろうと思われる点も多い印象を受けた。(谷口)

 

岩盤、日の目を浴びる。

武本 真侑(京都工芸繊維大学 工芸科学部 デザイン・建築学課程 学部4年)

<作品評>
・意匠
温泉場の再興という、一見環境エンジニアリングが関わりにくいテーマに対して、建築の形態操作の手掛かりとしてCFD解析を活用した意欲作である。
非定常計算を用いた理由や塔頂部の開口面積がベンチューリ効果を生むには小さすぎるように見えるなど、解析自体にはいくつか疑義があるが、提案された建築が周囲の街にも溶け込んだ不思議な愛着を感じさせるものであることに共感した。
何より、コンピュータを用いた解析を実施する前に手計算によって大まかな傾向をつかむ姿勢は環境エンジニアリングには必須であり、ぜひとも多くの方に参考にしてもらいたい。(谷口)

 

継木

藤田 祐也(東北大学大学院 都市・建築学専攻 修士1年、担当:環境解析)
遠田 慎之介(東北大学 工学部 都市・建築学専攻 学部4年、担当:意匠設計・環境解析)
藤枝 侑生(東北大学 工学部 都市・建築学専攻 学部4年、担当:意匠設計)
小林 珠枝(東北大学 工学部 都市・建築学専攻 学部4年、担当:設計総括)

<作品評>
・気流
応募者の大学キャンパスにある、既存RCラーメン構造の建築物のリノベーション計画である。学内のインキュベーション施設として既存建築の機能は継承しつつも新たな価値を付加し、時間的にも空間的にも継木するような建築として生まれ変わることを意図している。既存RC躯体に木造架構を挿入し、樹木やビオトープの中に佇む魅力的な建築が創られている。周辺の地形や樹木を考慮したCFDによる外部風環境検討によって敷地の現状分析を行った上で、自然採光や通風、ダブルスキンによるバッファー空間の創出、日射熱利用床暖房など様々な配慮を行なっており、環境設計としても高度なものとなっている点が評価された。一方で、採用した外皮システムや太陽熱利用設備などの仕様やその定量的な省エネ効果などについては十分な説明がされていない点に課題があった。(高瀬)

・熱
大学キャンパスの厚生会館と国際文化研究棟について、既存のRCラーメン構造に対し、部分的に屋根を持ち上げた上で木のフレームを拡張することで、ボリュームの拡張と内部空間の質を高めており、十分に実現性がある魅力的な計画となっている。構造の木造化と併せ、植栽計画にも配慮しており、統一感のあるプレゼンスタイルと相まって、環境共生の重要性をよくアピールできている。一方で、室内パースと光シミュレーションの関連が不明瞭で、夏冬の室内の温度ムラの程度が懸念される。室内光環境について照度の均一性やグレアの程度を明示したり、室内温熱環境について温度ムラの検討などを通し空間の質改善を行うことで、さらに計画の魅力を高めることが可能であろう。(前)

奨励賞

Umbilical Architectura

岡野 廉(明治大学大学院 理工学部 建築学科 修士1年、担当:設計・光環境解析)
松原 明香(明治大学 理工学部 建築学科 学部4年、担当:設計・風環境解析)
村中 輝(明治大学 理工学部 建築学科 学部4年、担当:設計・光環境解析)
小林 結花(明治大学 理工学部 建築学科 学部4年、担当:光環境解析・ボード統括)

<作品評>
・気流
明治大学内で堀口捨己によって設計された建築の一部である、スロープを保存しながら、新しく工房となる建築を計画している。保存対象のスロープや周辺建物による日射遮蔽効果や通風への影響といった外部環境解析、ウィンドキャッチャーや内壁、窓などの位置を検討するための室内通風・光環境解析など、丁寧な検討を行っている点が評価できる。
一方で、光環境と風環境にやや特化した案で熱的な検討が十分とは言えないことに加えて、一部では松ぼっくりを模したファサードデザインを採用しているものの、建物全体のファサードデザインの考え方が明確でない点は気がかりであった。(高瀬)

 

雁光の導き

志村 裕己(東北大学 工学部 建築・社会環境工学科 学部4年、担当:設計統括・意匠設計)
樋口 陽太(東北大学大学院 都市・建築学専攻 修士1年、担当:風環境解析)
小室 幹(東北大学 工学部 建築・社会環境工学科 学部4年、担当:光環境解析)

<作品評>
・光
しっかりとしたシミュレーションをもとに堅実な検討がなされた計画案として評価されよう。照度快適性は、その空間・行為に適した照度の高低と変動によって決まってくる概念として設定したと解釈すれば良いのだろうか。よく考えられた提案として評価できる。(吉澤)

 

風と光と翠

川本 容士(大阪工業大学大学院 工学研究科 建築・都市デザイン工学専攻 修士2年、担当:環境シミュレーション)
雪本 紗弥香(大阪工業大学大学院 工学研究科 建築・都市デザイン工学専攻 修士1年、担当:意匠設計・計画)
岡本 大煕(大阪工業大学 工学部 建築学科 学部3年、担当:環境シミュレーションサポート)
秋元 萌奈美(大阪工業大学 工学部 建築学科 学部3年、担当:環境シミュレーションサポート)
西島 咲希(大阪工業大学 工学部 建築学科 学部3年、担当:敷地調査・意匠設計・計画サポート)


<作品評>
・熱
奈良県生駒郡の道の駅について、4つのボリュームにおける日射解析を行った上で、光シミュレーションによる屋根からの採光による自然光利用とグレア予防、CFDによるダブルスキン・ソーラーチムニーによる気流制御を試みている。ポイントを絞った分かりやすく明確な検討でシミュレーションにより建築形態を探求した好例である。一方で、最終的な室内パースなどを見ていると、本当に光環境や温悦空気環境に問題がないのか十分に理解することができない部分がある。最終的に決まった空間が総合的に魅力的で説得力があるよう、シミュレーションの対象範囲や操作するパラメーターをさらに検討すれば、より魅力的な計画になるであろう。(前)

 
※総得点順に掲載