SABED環境設計シミュレーション賞の,社会人部門・チャレンジ部門が設けられ6回目となる今回,シミュレーション賞部門の応募作品は2作品,チャレンジ部門の応募作品は残念ながらなかったが,社会人部門の応募2作品はそれぞれ特徴があることから,いずれも優秀賞を受賞することとなった。
一つ目の作品は初等教育段階からSDGs教育を受けているSDGsネイティブの児童の通うことが想定される学校において,モデル建物に環境・設備工学的な工夫と行動変容による省エネ効果を検討したものである。
もう一つの作品は,2021年に最優秀賞を受賞したZEH-M+mにおける省エネ効果の向上が主に日射調整にあったのに対し,窓扉の開け閉めなどの環境行動によるヒーポンの効率化,排熱の活用,風呂の残り湯のミスト利用など,実用性の高いアイデアをまとめた提案である。
いずれも興味深い作品であるが,社会人部門の応募として期待していた実物件の応募は様々な制約によるものか見られなかった。業務上の制約やタイミングの問題もあるかと思われるが,今後の応募に期待したい。
SABED代表理事 倉渕 隆
社会人部門 優秀賞
◆ZEH-M+m-sunset
金子 知弘(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:建築計画・エネルギー解析・CFD解析)
<作品評>
・気流
2年前に最優秀賞を受賞した作品をもとに、敷地の方位等が不利な場合も考慮して設備の高効率化を詳細に検討した発展形の提案である。住人による建具の開閉等によって、給湯や暖冷房用のヒートポンプ熱源機の吸い込み温度を調整して高効率化を図っている。また、各種シミュレーションツールや住宅版エネルギー消費性能計算プログラム(通称、WEBプログラム)のロジックに基づいた熱源効率改善効果の定量的な検討など、技術的にも高度な検証が行われている点において、高評価を得た。
一方で、室内空気を室外機に吸い込ませる手法では換気量増加に伴って暖冷房負荷は増大するため、熱源効率向上と熱負荷の増加のトレードオフが生じるものと考えられるが、そこまで検証されていない点が惜しい。
また建築設計としては、前回に提案された「m room」がそのまま踏襲されているが、新規提案としてのインパクトに欠ける印象が拭えなかった。(高瀬)
・熱
スペースの制約などから省エネ化が困難な集合住宅について、給湯設備やエアフローウィンドウ・パントリー自然換気・さらにはミストによるヒートアイランド対策など、幅広い様々な手法についてシミュレーションにより詳細に定量的効果までふくめ検討している。1つ1つの手法の効果は小さくても、それぞれを組み合わせていけば相当な省エネ効果が期待でき、大変興味深い検討である。建築空間の提案というよりは設備よりのスタディーではあるが、環境シミュレーションの可能性を広げる可能性を感じさせる提案である。(前)
◆SDGsネイティブな学校生活
飯田 玲香(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:エネルギーシミュレーション)
内田 橘花(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:CFD)
海上 亜耶(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:意匠設計)
金子 知弘(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:CFD、エネルギーシミュレーション)
中曽 万里恵(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:光環境シミュレーション)
永瀬 修(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:気象データ分析)
<作品評>
・意匠
学校は常に一定数の人口が1日の大半を過ごす環境であるから、その快適性や省エネ性能の向上は社会的に極めて重要な課題と言える。生徒を始めとする利用者の行動を織り込んだシステムの提案は、学校というビルディングタイプならではの環境制御の可能性が感じられ、高く評価されるべきであろう。次なるステップとして、教育システムの変化を睨んだ、新しい学校建築としての空間的提案を含んだ提案へと歩を進めてほしい。(安原)
・光
小学校の児童に環境行動を学習して身につけてもらうことで環境共生を進めるというアイデアが評価されよう。照明計算を始めとするシミュレーションそのものには際立った目新しさはないかもしれないが、申し分のない確実な方法を採用しており信頼度が高い。(吉澤)