新型コロナウイルス感染症の流行も三年目を迎え、いまだ終息の見通しが立たず、日常的な学生生活もままならない毎日が続いている中、22作品の応募が寄せられたことにまずは感謝申し上げたい。今回から個人とグループに分けて審査することとなったが、応募数は個人(学部):5作品、個人(大学院):3作品、グループ:14作品であった。選考委員の間で一次評価を行って10作品に絞った後、合議によって1作品に最優秀賞を、3作品に優秀賞を授与することとなった。

 今回の特色としては、建物の特徴を環境シミュレーションによって際立たせる効果を狙っているものが多いことが挙げられる。気流環境のほか光環境、温熱環境について独自の指標を導入しつつ、シミュレーションを通して設計に反映させる方法が学生レベルにも浸透しつつあることは大変喜ばしい。特に最優秀作品では建築と緑の関係を有機的に捉え、緑の生育と環境改善の観点を建築設計に導入する視点は独自性があると評価された。また、今回から個人作品とグループ作品を分けて評価したが、個人作品でも十分な時間をかけた力作の応募があったことは大変喜ばしい。

二次選考からは映像データの提出をお願いしたが、図面とは異なる建物の魅力が表現されており、建築作品の特徴を効果的に表現する技術についても磨き上げていって欲しい。

SABED代表理事 倉渕 隆

最優秀賞

SYMBIOSIS POLIS

中澁 大喜(九州大学大学院 修士2年、担当:設計統括・気象・敷地分析)
仲嶋 貴大(九州大学大学院 修士1年、担当:風・温熱環境解析)
宮瀧 聡史(九州大学大学院 修士1年、担当:多目的最適化・光環境解析))

<作品評>
・意匠
植物のために最適化された環境が、翻って建築内部空間あるいは都市空間といった人のための空間にも好影響を与えるというコンセプトは、近年注目を集めているバイオフィリックデザインやリジェネラティブデザインにも通じる考え方でありとても好感を持った。形態の操作がファサードのみにとどまっているところが惜しく、提案された植栽によるファサードから得られる効果を最大化するために建築内部空間についても、例えば天井高や平面形状の考え方に遡及するような提案があっても良かったのではないだろうか。(谷口)

・光
植物に適した具体的な照度範囲を検討し、さらに多目的最適化を実施してみた点など、最優秀に値する出来栄えであったと評価されよう。(吉澤)

 

優秀賞

門層の家

柳川 和慶(東京理科大学 学部4年)

<作品評>
・意匠
連続するCLT門型構造のずれを利用して、風や光、日射といった要素を適切に室内に取り込もうとする明快なコンセプトのもと、様々なスケールでの各種環境シミュレーションが実施された大変な力作である。建築の形態と内部環境との関係についての検討に留まらず、窓開けや建具の操作など住まい手の調整行動による効果にも言及し、操作性を考慮したディテールまで提案できていることが特に素晴らしい。(谷口)

・熱
CLT構造の部材の隙間を活用し、日射・自然光・風の取り込みによる各季節の室内環境の評価・設計を丁寧に行っている。敷地の読み解きから始まり、フォトン追跡による先進的な光シミュレーション、窓やガラリ・壁構成などの詳しいディテール検討など、シミュレーションが大変充実しており、プレゼンテーションも説得力がある。この充実した設計を学部生が1人で実現していることは、誠にすばらしいものと高く評価できる。今後は、開口部の付属物による調整なども考慮できるとなお良い。(前)

杜の導

横山 大志(東北大学 学部4年、担当:設計統括)
板谷 廉(東北大学 学部4年、担当:意匠設計)
武田 結(東北大学大学院 修士1年、担当:温熱環境解析)
山根 優太(東北大学大学院 修士1年、担当:光環境解析)
出牛 すずか(東北大学 学部4年、担当:風環境解析)

<作品評>
・意匠
モジュールごとの解析と建築ボリューム全体での解析の双方からアプローチをして建築を提案していくプロセスは、特に比較的小さな空間の集合体である小学校というプログラムとも合致した秀逸な検討手法だと高く評価した。検討内容についても、風環境・光環境・日射環境・エネルギー性能・レジリエンスと多岐にわたり、グループ課題としても非常に総合力が高い。(谷口)

・気流
異齢林が集まる森の生態系を活かした「森の学舎」を設計した作品である。光・風・温熱環境シミュレーション、日射解析、レジリエンス検討、エネルギー消費量計算というように、複合的な検討を行っていた。各検討が緻密に行われていただけでなく、建築作品としてのプレゼンテーションのレベルも高く、総合的に優秀作品にふさわしいものであった。(高瀬)

光をのぼる

野澤 文珠香(東京大学大学院 修士1年)

<作品評>
・意匠
商業施設の内側に都市の自然を引き込んで、わざわざ行く価値のある特別な空間と体験をつくり出すという問題設定には大いに共感する。欲を言えばミラーウォールによる空間体験の現象レベルでの魅力を、より活き活きと示すドローイングが見てみたいし、外観にももう一工夫欲しかった。ともあれ、目的意識が明解で、他のビルディングタイプにも適用可能な可能性を感じる優れた提案である。(安原)

・光
設計コンセプトに対してシミュレーションを用いて丁寧に解を導いている点が高く評価されよう。細かい点を言えば、照度分布がどの面の値を示しているのかが図面から読み取れないとか、本来正しい計算が難しい鏡面反射成分の効果をどのように計算したのかが説明資料から読み取れないなどの問題はあったが、全体としては賞に値する作品であると評価できよう。(吉澤)

奨励賞

団地共同再作生計画

神山 祥太(東京都立大学 学部4年)

<作品評>
・意匠
高度成長期に建設された無味乾燥な団地を、ライフスタイルの変化に伴う間取りの提案を軸にリノベーションする事例は多々あるが、環境の観点を採り入れたことは新鮮である。シミュレーションの結果表れるランダムな外観と空間の表情だけでなく、将来の変化に応じて増築、減築を繰り返し変わり続ける可能性をも感じさせる点が、この提案の魅力であるように思う。(安原)

光と風が紡ぐ繭

石川 博利(滋賀県立大学大学院 修士1年、担当:全体統括、風環境解析)
㓛刀 虎之介(滋賀県立大学大学院 修士1年、担当:全体統括、風環境解析)
今村 颯真(滋賀県立大学 学部4年、担当:蚕室詳細設計、光環境解析)
中谷 祐紀(滋賀県立大学大学院 修士1年、担当:蚕室詳細設計、光環境解析)
櫻井 陸人(滋賀県立大学 学部4年、担当:全体設計、3D modeling)

<作品評>
・気流
敷地の桑畑の配置や養蚕のための空間を中心とした複合施設の計画にあたり、光環境・日照、風環境、温熱環境の検討に基づいて設計された作品である。いくつものパターンを考案し、都度シミュレーションによって効果検証しながら設計している点は非常にレベルが高く、断面詳細図を描いていることも高く評価できる。一方で、建築作品として見ると蚕室の検討の比重が多く、複合施設として導入するプログラムの妥当性やゾーニング、ファサードの考え方など、詰め切れていないと感じさせる点が多かったのが惜しい。(高瀬)

Botanook Garden

岡野 廉(明治大学 学部4年、担当:光環境解析)
佐川 寛太(明治大学 学部4年、担当:設計・風・温熱環境解析)
小暮 宥喜(明治大学 学部4年、担当:設計・光環境解析)
吉田 裕紀(明治大学 学部4年、担当:風・温熱環境解析)

<作品評>
・光
シミュレーションプログラムを最大限活用して精緻な検討をしている点が学生の作品として高く評価されよう。細かいことを言えば、指標の説明や効果の判断の部分でまだ修正や再検討が必要と思われる箇所はあるが、今後の更なる研鑽を期待したい。(吉澤)

山口 有覇(東北大学 学部4年、担当:設計統括)
藤野 正希(東北大学 学部4年、担当:意匠設計)
下地 拓(東北大学大学院 修士1年、担当:風環境解析)
川口 朱理(東北大学大学院 修士1年、担当:光環境解析)
藤田 祐也(東北大学 学部4年、担当:風環境解析)

<作品評>
・熱
取り壊しが決まった共同住宅について、周辺の豊かな自然環境を活かしながら、敷地・建物計画を環境シミュレーションを活用しながら行っている。建築計画においても、こうした定量的検討に基づく検討が広がっていくことを大いに期待したい。ただ、外構の検討が通風や自然光の検討に偏っており、また各住戸の検討は初期的なものにとどまっている。仙台という準寒冷地にふさわしい外構および各住戸の検討が充実すると、さらに素晴らしい。(前)

風をまとう島の玄関口

船木 龍人(芝浦工業大学大学院 修士1年、担当:全体統括・flowdesigner・モデル作成)
北川 卓人(芝浦工業大学大学院 修士2年、担当:外構計画・進行サポート)
小松崎 楓(芝浦工業大学大学院 修士2年、担当:外構計画・進行サポート)
小森 佳祐(芝浦工業大学大学院 修士1年、担当:flowdesigner・図面作成)
藤井 茉優(芝浦工業大学大学院 修士1年、担当:モデル作成・climate studio・シート作成)
今泉 友希(芝浦工業大学 学部4年、担当:解析サポート・パースサポート)
伊藤 貴哉(芝浦工業大学 学部4年、担当:解析サポート・図面サポート)

<作品評>
・気流
風が有する効果を独自の観点で5つに分けて提案し、その効果を最大化させる空間造りに取り組んだ作品。特に、冬季に意図的に吹き溜まりを形成し、これを活用しようとするプログラムはユーモアである。5つの風について、それぞれ目標値を設定し、想定した空間が達成されたことを確認している点も評価できる。風速を平均値のみではなく、その変動(時間的な風の揺らぎ)についても意識した空間設計がなされると、より洗練された「風が作り出す空間」の設計に繋がると思われる。(石田)

八木山ライブラリー

陳 阿青(東北工業大学大学院 修士2年)

<作品評>
・気流
設計敷地周辺環境を把握し、主に夏季における自然通風を狙い建物の位置や逆解析による開口位置検討が行われており、一連の取り組みに対する一定の評価ができる。図書館内部の、各室用途を踏まえた通風計画が検討されると尚良い。さらに、本提案において行われた風環境に関する検討にとどまらず、温熱環境等、他の物理環境を踏まえた、建物形態に関する検討が行われることによって、より自然通風に適した設計作品提案ができる可能性を有する。(石田)

※総得点順に掲載