学生部門の応募数は例年より少なかったが,例年同様グループ作品の応募数が相対的に多く,意匠と環境設備を専攻する学生諸君が協力して作品を仕上げていくプロセスの中で,それぞれの立場で環境志向の建築に興味を持って頂くことに期待したい。
一次選考を経て二次選考に残った応募数の内訳は個人(学部):2作品,個人(大学院):2作品,グループ:5作品となった。その後選考委員の間で合議によって,2作品に最優秀賞を,3作品に優秀賞を授与することとなった。最優秀賞を獲得した二作品はいずれも公衆浴場のリのベーションをテーマにしたものであった。
「屋根で創る環境」では風環境や光環境の改善のために,建物北側に大屋根を設け,夏の風の取り込みと隣接する公園の風環境の改善,冬には風の遮断を狙う。また,屋根面への風圧分布から室内の風通しを考慮した開口部設定を行っている。さらに,屋根の素材を工夫した建物内外の光環境のシミュレーションを行うなど,魅力的な提案を行っている。
同じく最優秀賞を受賞した「梅乃湯に集う」では,太陽熱と水道水による温水・冷水を活用した床暖房や足湯,壁冷房などの自然エネルギー志向の環境調節を導入,太陽電池の導入を考慮するとともに,室内温熱環境のCFDシミュレーションを実施し,人々の集う快適空間のコンセプトモデルとして興味深い提案となっている。
今回も応募作品のレベルは全般的に高かったが,SABED賞への応募がモチベーションの向上に繋がり,さらに学生課題の作品の質の向上に貢献しているとすれば,大きな喜びである。
SABED代表理事 倉渕 隆
最優秀賞
◆屋根で創る「環境」
安澤 怜央人(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年 担当:風解析)
猪又 境斗(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年 担当:熱解析)
本山 朗生(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年 担当:光解析)
籾山 碧空海(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年 担当:光解析)
<作品評>
・意匠
かつて都市の公共インフラであった銭湯の建築に新たな大屋根を架けることで、都市に対して環境的にも貢献する半屋外空間をつくるプロジェクト。環境シミュレーションが、建築と都市の間の新たな関係性の創出に注力していることに大いに共感するし、風、光(昼と夜)といった多面的な検討がなされていることも評価したい。銭湯の内部空間が、この半屋外空間と関係性を結べば、さらに魅力を増すであろう。
(安原)
・気流
都内の住宅地にある銭湯のリノベーション計画である。光と風をコントロールする環境デバイスとしての屋根形状を提案している。特に、隣地の公園を取り込むことで地域にとって開かれた空間を作り出そうとしている点、昼光利用だけでなく夜間の人工照明も魅力的に演出しようと素材についても細部に渡って検討されており、好感が持てる提案であった。一方で、肝心の銭湯空間やその周辺の部屋の光・風環境以外の説明が不十分であり、環境要素以外の観点から建築計画の妥当性が読み取れない点は気になった。(高瀬)
・光
学生の応募作品として、環境シミュレーションを用いて何を操作していくのかという点が非常にわかりやすく示されており、好感のもてる作品になっていたと言えよう。光環境に関するシミュレーションも十分なものであったが、今後は輝度を用いた夜間の見えの検証など、より踏み込んだ検討を行なっていくことをさらに期待したい。(吉澤)
◆梅乃湯に集う
藤田 淳也(九州大学 人間環境学府 修士1年)
<作品評>
・意匠
銭湯というかつての地域コミュニティの1つの中心となっていた建築を、そのエネルギー効率やCO2排出量を改善しながら現代の新たな地域のハブへと生まれ変わらせようとする大変魅力的な提案である。空間・環境の提案にとどまらず、設備システムや構造計画についての提案もしっかりと組み込まれており、応募者の力量には驚かされる。1点、南面のガラスファサードからの日射の影響が、ペロブスカイト太陽電池を設置しているとはいえ室内環境に対してそれなりの影響はあると考えられるが、夏のCFD解析において日射の影響が考慮されていない点は気になった。とはいえ、提案された空間構成も魅力的で、総合的な建築提案として高く評価できる。(谷口)
・気流
廃業した銭湯を銭湯+地域コミュニティ拠点としてリノベーションし、再生可能エネルギーを利用して課題となる運用コストの削減まで提案するなど、空間や環境性能だけでなく運営まで含めた綜合的な提案となっている点が評価された。改築というより建替のような計画となっており、今回提案されている建築のボリューム感やガラス張りの開口などと周辺の住宅地との関係性についてはやや気になるものの、建築計画と環境設備計画、構造計画を統合して考えており、密度が高い提案となっている点は大いに評価できる。(高瀬)
・気流
銭湯運用に必要な環境形成、エネルギー需要に関連する設備システムに関する調査、またそれを建築物に効果的に取り込んでいる。特に、冬季は給湯熱を利用した床暖房を提案しており、エネルギー効率の向上を図っている。CFD解析により、想定する気流感の再現や上下温度差に関する検討も行われており、室利用者の温熱快適性に関する定量的な評価が伴っている点も評価できる。(石田)
優秀賞
◆BLUR
朝長 拓海(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年)
宮本 雄吏(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年)
井上 翔太(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年)
松田 卓巳(東京理科大学 創域理工学部 建築学科 学部4年)
<作品評>
・意匠
銭湯を中心とした地域施設を、一群の屋根の連なりとして都市の中に位置付ける手法が印象的である。銭湯の内部空間をシミュレーションを通じたデザイン対象としている点も面白いが、その他のシミュレーション検討が、部位ごとにバラバラに行われている点はやや惜しい。この特徴的な屋根の連なりが、ひと繋がりの環境として認識できる仕掛けがあれば、プロジェクトの説得力は増すだろう。(安原)
・気流
「霧がかった空間」を空間計画のメインコンセプトに据えて、温度差を駆動力とする水蒸気輸送を効率的に行うデザイン提案が行われ、温度差換気の制御に成功している。形状決定の際には、CFD解析を効果的に活用した形状のスタディが行われている。湯面で発生した水蒸気が上昇する過程で室温の異なる内部空間を通過することとなるが、各空間において露点温度に達しているのか、則ち、メインコンセプトである「霧がかった空間」が本当に形成され得るのかの検証が行われると、一層、実現性の高い提案となったと考える。(石田)
◆しまに根づく 太陽と向き合い土を背負う市庁舎改修
関根 壮吾(東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 学部4年)
<作品評>
・意匠
近代以降の日本建築において地域の風土を取り入れた最初期の事例である名護市庁舎を、現代の環境技術を用いてアップデートする意欲作である。シミュレーション技術は専ら、増築部のルーバーデザインに用いられているが、既存部分への提案である「土の道」の効果の検証や、既存の「風の道」の再活用にもチャレンジして欲しい。環境配慮を標榜しながら、優れた建物資源を次々とスクラップしていく現代の建築界への批評的提案としても評価したい。(安原)
・熱
良く知られた沖縄県の名護市市庁舎を対象に改修計画を検討し、建物内の水循環、さらに日射解析により沖縄という低緯度の地における日射制御を行うファサードをデザインし、現状の魅力を活かしつつ建物の内外の改善を試みた作品である。提案された独自のファサードが日射制御だけでなく、自然光利用や通風などの環境要素についても改善効果を提案できると、さらに魅力的な提案になるであろう。(前)
◆公園改革
山田 美樹(日本女子大学大学院 建築デザイン研究科 修士1年 担当:設計提案・簡易解析・建築提案)
来住 春奈(日本女子大学大学院 建築デザイン研究科 修士1年 担当:提案・解析)
<作品評>
・意匠
ますます蒸暑化・酷暑化する日本において、ただ高断熱化・高遮熱化された建物内に閉じこもるのではなく、いかに不快ではない半外部空間をつくりだすかという課題は個人的にもここ数年強く意識しているものであり、応募者らの問題意識は大変共感できるものであった。その課題に対して団地再生という国内のもう1つの社会問題とリンクさせて提案している点も、応募者らの社会問題に対する真摯な眼差しが感じ取られ、好感が持てる。解析についても敷地条件の読み解きから提案している空間の評価に至るまで、風や日射など複数のパラメータを対象として実施しており、大変力作である。一方で、提案された空間が若干ユニットの繰り返しによる単調な雰囲気から抜け出せなかった点が惜しい。近年は、団地の高齢化という問題はありつつも、あえて団地に住んでコミュニティ形成や子育て環境を求める若い世代も意外と多い。そのような具体的なペルソナを想定して空間の多様性をもっと提案できるとより魅力的な提案となったかもしれない。(谷口)
・気流
立体公園の光・雨に関するプランニング検討やプレゼンテーションは見事である。当ウェブサイトをご覧の方には是非、プレゼンテーション動画を閲覧して頂きたい。CFD解析等のシミュレーション技術を環境評価のみならず、環境デザインに活用することにより、さらに良い設計提案にブラッシュアップされる可能性を秘めていると感じる。一方、CFD解析の設定(解析領域の範囲や、敷地周辺の建物群の再現状況など)において改善が可能な点が複数見られた。(石田)
奨励賞
◆交歓と創造の帷
大宅 央人(滋賀県立大学大学院 環境科学研究科 環境計画学専攻 修士1年)
<作品評>
・熱
銀座の商業施設において、環境のムラを生み出す帷ファサードにより、日射・通風・光環境をシミュレーションし、衣服の修繕工房と表現の場を創造しようという魅力的な作品である。ダイナミックな帷ファサードから創造される環境を断面や平面だけでなく立体的に示し、かつ動画での表現のエッセンスを図面にも示す工夫を行うことで、さらに説得力が高まるであろう。
(前)
◆るばれび
谷口 えみる(大阪工業大学大学院 工学研究科 建築・都市デザイン工学専攻 修士1年 担当:環境シミュレーション)
國吉怜壮(大阪工業大学大学院 工学研究科 建築・都市デザイン工学専攻 修士1年 担当:計画サポート)
矢田紀真(大阪工業大学大学院 工学研究科 建築・都市デザイン工学専攻 修士1年 担当:計画サポート)
松田華凜(大阪工業大学 工学部 建築学科 学部4年 担当:意匠設計&計画)
<作品評>
・気流
近年、様々な使い方が求められてきている図書館を題材に、Daylight AutonomyやGlare Autonomyといった昼光の年間計算結果を活用して各室用途に適した外部ルーバーを検討している。ただし、建築計画の中でルーバーが単なる日照制御としての役割にとどまっており、何故ルーバーである必要があったのか、大開口+ルーバーの組み合わせ以外により魅力的な窓システムを提案できる可能性があったのではないかという疑問が生じた。また、図書コーナーと様々な用途の各部屋との関係性をどのようにデザインしたのかという説明が不十分であり、建築作品の提案としてやや物足りなさを感じた。(高瀬)
◆ひとのいばしょを掘りおこす
阿部 裕希(東北大学 工学部建築・社会環境工学科 学部4年 担当:意匠設計)
小泉百花(東北大学 工学部建築・社会環境工学科 学部4年 担当:意匠設計)
堤 圭吾(東北大学 工学部建築・社会環境工学科 学部4年 担当:環境解析)
土居 建貴(東北大学大学院 工学研究科都市・建築学専攻 修士1年 担当:環境解析)
山本 愛実(東北大学大学院 工学研究科都市・建築学専攻 修士1年 担当:環境解析)
<作品評>
・熱
農業用水路を活用し、地域コミュニティーに貢献する空間を創造しようとする案である。水路の蒸散熱により涼しさを得ようとしている部分のシミュレーションについてより詳細な情報を示し、冷気が窪地の中でどのように流れたり滞留したりするかを分析し、形態の改善につなげていけば更に魅力が高まるであろう。(前)
◆快
村上 武史(東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 学部4年)
※所属・学年は応募時のもの、総得点順に掲載