SABED DESIGN AWARD 2018では事前登録13名であったが最終的に8名の応募者を得た。予告期間が今回短かったのにもかかわらず,非常に力作ぞろいであった。特に,事務局側からは海外へのパブリシティに対して特段の努力を行っていないにもかかわらず,海外から二作品の応募を得たことは大変喜ばしい。今回、公開審査の機会が得られなかったが,SABED理事会を中心とした運営メンバーによって作品の出来栄えを審査し,最優秀作一作品,優秀賞三作品,奨励賞二作品を選定した。いくつかの作品では設計した建物にシミュレーション検討を実施するレベルから,シミュレーションによって形を決めるという本来のあるべき姿に取り組んでいる点が評価できる。今後ともシミュレーションを最適設計を行うツールとして利用する方法論の確立に向けて取り組んでいっていただきたい。(代表理事 倉淵隆)

最優秀賞

WANG JIAHE / 東京大学 工学部建築学専攻 前研究室 修士2年

「Balcony Housing
モジュラー設計の概念に基づいて、パラメトリックシミュレーションの手段を使用してさまざまなタイプの平面図に最適なバルコニーを設計する」

講評:黒部市パッシブタウンの敷地の気象分析をもとに、熱負荷・光環境等を考慮しながらOctopusを用いた丹念な多目的最適解の探求から、バルコニー形状を求めている。特に年間を通した効果の予測から最適形状を求めるプロセスは、実際の設計においても即適用できる可能性を秘めており、今回はその綿密性と実現性および将来性が非常に高く評価された。なお多目的最適解検討の上で用いているsDAやDGPは本来オフィス空間向けの指標であり、それらを無批判的に集合住宅に適用している点については若干の疑問も残った。建築環境を評価する各指標は、数値化する段階で何らかの限定・限界を持っているものであり、環境設計を進めていく上で設計者も常にそのことに意識的であってほしい。今後のさらなる発展に期待したい。

優秀賞

カンシンイ / University of Pennsylvania School of Design , Architecture Master in Environmental Building Design

「BIOCLIMATIC HYBRIDS The New Chautauqua Institute In New Orleans」

講評:ニューオーリンズを敷地とし、音楽や祭りが自然と沸き起こる現地の雰囲気や文化を継承した一年中屋外で音楽を楽しめるオープンスペース、1階や屋上にカフェ・バーや店舗、2~4階にはイノベーティブなオフィス、5階から7階には住宅といった具合に、様々な機能を立体的に配置した複合施設である。オープンスペースや居室の快適性を向上させるため、敷地の気象分析から、ボリューム検討による日射制御、開口部材の検討による光・熱制御、音響や設備ダイアグラムといった詳細検討まで行っている。日射制御のためのスクリーンや自然換気、Evaporative Coolingのためのディテール検討などには課題が残っているが、各種シミュレーションを用いた建築環境設計の見本といえるような作品であり、圧倒的なスタディ量が評価された。The site of this imaginary project is in New Orleans, where has rich music history and culture. The applicant intended to provide many service such as the space for music in the public space, and the stores on 1st floor and roof top, innovative office space and apartment house on the middle floor, and so on. The studies for many environmental subjects (climate analysis, self-shading, thermal and light environment depending on windows, acoustics of outdoor hall and the control system of facility) were totally performed. Although the effects of outer screen, stack ventilation and evaporative cooling seem to lack in accuracy or have technical problems, this work is recommended as an excellent example of environmental design process because of its overwhelming quantity of simulation studies.

優秀賞

神谷将大  / 東北大学大学院 修士1年
小野田真帆 / 東北大学大学院 修士1年
我孫子太一 / 東北大学 4年
遠藤聡人  / 東北大学 4年

「Lamination 積層が生み出す多彩な空間を内包したキッズカフェの提案」

講評:周辺建物を含めた街区スケールでの風解析、直射光解析に始まり、建物スケールでの温熱環境解析や光環境解析等、スケールごとに複数のシミュレーションを組み合わせて設計が検討されており、大変意欲的な作品である。また、CFD解析を用いてコーヒーの香りの拡散具合をシミュレーションし、空間構成に反映させている点はユニークな試みである。一方で、温熱環境解析の前提として計画建物が「外皮性能の低い建物」と割り切ってしまっている点には疑問を感じた。そのような低い外皮性能の空間で利用者の快適性を確保しようとすると必要以上にエネルギーをロスしてしまう計画とはならないだろうか。「積層」という建築テーマゆえ、外皮性能は低くなってしまうことは仕方ないと提案者達は説明しているが、外観パースを見る限り積層の構成の中には、ガラスだけでなく壁で閉じている空間もあるように見え、例えば利用者が比較的長く留まる空間は外壁の開口率を調整して外皮性能も担保するなど、ファサード設計にももう一工夫する余地があったように思われる。

優秀賞

森知史 / 竹中工務店(設計当時:東京理科大学大学院 理工学研究科 吉澤研究室)

「陽だまりの下で暮らすこと」

講評:サーカディアンリズム(体内時計)に着目して高齢者住宅を提案した案であり、膨大なパラメトリックスタディを行って建築形態を決定した力作である。一方で、パラメトリックスタディを経て形態決定するプロセスが万人に共感してもらえるプロセスであったかには疑問を感じた。特にシミュレーションを用いたパラメトリックスタディでは、シミュレーション結果の表現として差異があるように見えても、本当に有意な差であるのか、形態決定に影響を及ぼし得る差なのかという点は丁寧な議論が必要であろう。また、サーカディアンリズムから検討された最終提案が「ムラのある快適性」という従来のボキャブラリーに回収されてしまっているが、パラメトリックスタディを経て見出せた空間として獲得しているであろう価値を、他に言語化できなかっただろうか。

奨励賞

CHEN, Bo-Rui / 成功大学
LIU, Yu-Tung / 成功大学
TSAI, Hsin-Hsuan / 成功大学
GUO, Tian-An / 成功大学

「風水 Wind.Water.Education」

講評:台湾の建築形態のプロトタイプである「埕(Cheng)」を改良しながらエコ・スクールを提案した案である。気象分析から始まり、特に外部空間の快適性に着目して気象分析から外部風のCFD解析、UTCIを用いた快適性評価を行った丁寧な検討プロセスは評価に値する。ただし、各プロセスにおいて改良された1案のシミュレーション結果のみが掲載されているため、改良案がベストな案であったのか判断が難しい。特に初期の建築ボリュームのスタディでは、可能性のある複数案による比較検討が行われているとより説得力のある提案につながったと思われる。
A proposal of eco-school while improving “Cheng” which is the prototype of the architectural form in Taiwan. Starting with a climate analysis, a careful examination process, which focuses on the comfort of the external space, conducted CFD analysis of external wind from meteorological analysis, and comfort evaluation using UTCI is worthy of evaluation. However, since only one improved proposal’s simulation results of each process are posted in each process, it is difficult to judge whether the improvement plan was the best plan or not. Especially in the early stage design of the building volume, it seems to have led to a more persuasive proposal if comparison studies are being conducted with possibly multiple proposals.

奨励賞

木村愼太朗 / 東京大学 工学系研究科建築学専攻 今井研究室 修士1年

「The Behavior Of Nature -自然のふるまいのもとに-」

講評:富山県黒部市でYKKグループが開発を進めているパッシブタウンにおける集合住宅の将来計画案である。季節ごとの日照時間・年間日射量や風の流れを意識し、住戸配置や地形を大胆に操作して立体的な公共空間と快適な室内環境の両方を実現させようとした意欲的な案となっている点が評価された。一方で、提案されているような住戸配置を実現させるためには外皮の断熱性能の検討も必要であり、凹凸のある地形での雨水処理などを考えると軸組構造や水道(給排水・灌水)のディテールにもまだ発展の余地が多いものと考えられ、今後の展望に期待したい。

 

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